溶連菌感染症ってご存じですか?聞きなれない名前かもしれませんが、小児科ではけっこう多い病気です。ふつうの風邪として見逃されていることも多く、注意が必要です。
A群β溶血性連鎖状球菌(溶連菌)がのどに感染して起こる病気で、園児から小学生に最も多く見られます。のどが赤く腫れて痛がり、高熱がでます。舌がいちごのように赤くブツブツしてきたり、口の横が切れたりします。また顔、体、手足に発疹が出て、あとで手足の皮がむけることがあります。
診断はのどの検査で5~10分でわかります。診断が確定すれば抗生物質で治療し、1日か2日で熱が下がり、のどの痛みも消えます。溶連菌感染症はうつる病気ですが、抗生物質を飲みはじめてから24時間以上たっていれば、他の子にうつりません。主治医の指示に従って登園(登校)してください。
ここで注意していただきたいのは、途中で薬をやめてしまうと再発するということです。また、薬をきちんと飲まないとあとでリウマチ熱や腎炎というこわい合併症を起こすことがありますから、指示どおりに最後まで飲むことが大切です。抗生物質は10~14日間飲んでいただきます。治療の最後には尿の検査をして腎臓に異常が出ていないことを確認します。
溶連菌には10種類以上の型があるため、一度かかれば二度かからないという病気ではありません。また予防接種もありません。そのため何度も溶連菌感染症にかかるお子さんもいらっしゃいますが、その都度しっかり治療していればこわい病気ではありませんから安心してください。
予防は、患者との濃厚な接触を避けることと、うがい、手洗いなどの一般的な方法しかありません。
高熱が出て、のどが痛いときは必ず受診してください。
風邪の治療には抗生物質が必要だと勘違いしている方いらっしゃいませんか?「熱が出たので抗生物質を出してください」なんて人がときどきいますね。では抗生物質はどういう薬かというと、細菌をやっつける薬なんです。溶連菌感染症やとびひなどのように細菌が原因の病気に使うものです。子どもの風邪の原因のほとんどはウィルスですから、抗生物質は効果がありません。ただ、風邪などでウィルスに感染していると細菌も侵入しやすくなり、気管支炎や肺炎を重くしたり、中耳炎を起こしたりします。このようなウィルス感染の上に細菌感染が重なった混合感染の時には抗生物質は効果があります。また、肺炎を起こすマイコプラズマやクラミジアなどの微生物にも効果があります。
抗生物質にはいくつかの種類があり、原因菌や病態に合わせて処方します。
子どもが風邪をひいた時、以前もらった抗生物質の残りがあったので飲ませておいた、なんてことありますよね。でもちょっと待ってください。私たち小児科医は細菌が原因かもしれない病気をみたら、細菌をチェックする検査をします。ところが抗生物質を飲ませていたためにその検査ができないということがよくあります。
抗生物質は細菌をやっつける薬ですから、病気の原因菌だけでなく腸の中にいる大切なよい菌(腸内細菌)まで殺してしまいます。ですから子どもの場合、抗生物質を飲むとよく下痢になります。
また、抗生物質を使いすぎると細菌も変化して、抗生物質が効きにくくなる(耐性菌)という現象もあり問題になっています。ほんとうに抗生物質が必要な時に効く薬がないなんて大変なことです。抗生物質は医師の指示を守って正しく使いましょう!
夏になると流行るのが「プール熱」「ヘルパンギーナ」「手足口病」などの夏かぜです。
「プール熱」は正確には「咽頭結膜熱」という病気でアデノウィルスの感染によっておこります。かつて消毒が不完全なプールの水を介して流行したことからこの名前がつきましたが、プールに入らなくてもうつりますし、夏以外にもみられます。39~40℃の高熱が4~5日続き、のどの痛みが強く、目も赤くなります。その他に頭痛、吐き気、腹痛、下痢を伴うこともあります。これはウィルスによる病気ですから8号でお話したように抗生物質は効きません。症状をやわらげる治療(対症療法)しかなく、高熱には解熱剤を使ったり、目の症状が強い時は点眼薬を処方します。のどが痛く、食欲が落ちるので、やわらかくてのどごしのよいものを与えます。水分の補給もしっかりと!目やにやせき、便から感染しますので、タオルはほかの家族とは別にして、手洗いも丁寧にしましょう。
「ヘルパンギーナ」はコクサッキーウィルスによる感染症で38~40℃の高熱が2~3日続きます。のどの奥に小さな水ぶくれができて痛いので、食べられなくなります。やはり抗生物質は無効で対症療法しかありません。水分は十分とりましょう!オレンジジュースなど酸味のあるものはのどにしみるのでさけましょう。牛乳や麦茶、冷めたポタージュスープなどをためしてみてください。
「手足口病」はその名のとおり、手のひら、足のうら、口の中に小さな水ぶくれができる病気です。ひざやおしりにもできることがあります。コクサッキーウィルスやエンテロウィルスが原因で抗生物質は無効です。熱がなく、元気であれば登園、登校は差し支えありません。
原因ウィルスは数種類あるので、数回かかることがあります。
おたふくかぜは別名を「ムンプス」、あるいは「流行性耳下腺炎」といいます。おたふくかぜの合併症としては髄膜炎(発熱、頭痛、嘔吐)や睾丸炎(睾丸の腫れ)が知られていますが、「ムンプス難聴」という耳が聞こえなくなる合併症もあることはご存じでしょうか。以前はムンプス難聴は非常にまれと私たち小児科医は考えていましたが、最近になりもっと発生頻度が高いことがわかってきました。少なくとも数千人に一人は難聴が発生しているようです。
典型的なおたふくかぜでは耳の下やあごの下が腫れて、痛く、熱も出ます。ところがおたふくかぜにかかってもほとんど症状がでないこともあります。これを「不顕性感染」といいます。おたふくかぜの30~40%が「不顕性感染」といわれています。不顕性感染でも人にはうつりますし、難聴になることもあります。ですから原因不明の難聴とされた中にムンプス難聴がかなり含まれていると思われます。また、ムンプス難聴ではふつう片方の耳だけが聞こえなくなるため、子どもでは難聴になっても気づかないこともあります。
ではムンプス難聴をなくすためにはどうしたらよいでしょうか。ムンプスワクチン(おたふくかぜの予防接種)です。現在、日本ではムンプスワクチンは任意接種(有料)として行われており、その接種率は20~30%です。これではおたふくかぜの流行をおさえることはできません。日本では年間およそ100万~200万人ものおたふくかぜの患者さんが発生しています。ムンプスワクチンの接種率を85~90%以上に上げることができればおたふくかぜの流行そのものをなくすことができますが、日本の現状では無理でしょう。
みなさん、ぜひムンプスワクチンを接種して子どもたちを不幸なムンプス難聴から守ってあげてください。
急に熱が高くなったとき、ひきつけ(熱性けいれん)をおこすことがあります。でも、あわてないでください。大丈夫です!
これは子どもの7~8%(つまり子どもが100人いれば7~8人)にみられる比較的よくある症状です。普通は数分の発作で死ぬこともなく、脳にも障害を残しません。熱性けいれんの再発は約20~40%で、多くは一生に1回きりですし、6歳以降にはほとんどなくなります。熱性けいれんの後、てんかんを発症するのは約2~7%で多いものではありません。また、熱性けいれんが知能障害や情緒障害の原因になることもありません。
ひきつけたときはどうするか
1)あわてない、あわてない
絶対に死なない。数分で止まる。
2)何もするな
口の中に指や箸を入れない。大声で呼んだり、体をゆすったり、押さえつけたりしない。
3)楽な姿勢で
体を横向きに寝かせ、服をゆるめる。ピンなど危ないものは取りはずす。
4)吐くと危ない
吐きそうなしぐさをしたら体ごと横にして、吐いたものがのどにつまらないようにする。
5)じっと見る
時計を見て、何分続いているかを確かめる。けいれんの様子をよく見て、あとで主治医にくわしく伝えられるように。
どんなとき病院へ行くか、救急車を呼ぶか
1)けいれんが長く続く(15分以上)
2)何度もけいれんが繰り返す
3)いつものけいれんと違う
特に右と左で手足の動きが違うとき
予防は
抗けいれん剤の坐薬を使う予防法があります。主治医とよく相談してください。
熱性けいれんがあっても予防接種は主治医の判断・指示のもとで受けることが可能です。